臨床検査研究において適切なサンプリング方法の選択は、研究結果の信頼性と妥当性を確保するために非常に重要です。研究計画の段階でサンプリング方法を明確に定義しておくことが必須です。どのような母集団を想定し、どのような方法でサンプルを抽出するかを事前に決定しておく必要があります。 ## サンプリングの基本原則 研究者の主観で「適当に」サンプルを選択する方法は、バイアスが生じるため避けるべきです。研究の目的に応じて、適切なサンプリング方法を選択することが重要です。サンプルサイズについては研究開始前に検討することが望ましいでしょう。 サンプリングでバイアスが生じた場合、統計的手法でこれを完全に取り除くことは不可能であることを認識しておくべきです。 ## 具体的なサンプリング例 ### ケース1: 限られたリソースで代表的なサンプルを得る場合 例えば、全検体の測定が困難で100例のみ測定可能な場合: 1. 対象となる全検体リストを作成する 2. コンピュータの乱数生成機能を使用して100個の乱数を生成する 3. 生成された乱数に対応する検体番号を選択する 4. 選択された100検体を測定する この方法は、特別な層別化を行わない単純ランダムサンプリングです。母集団が均質であれば、比較的公正な選択方法となります。リソースが限られた状況で最も一般的に使用される方法です。 ### ケース2: 広範囲の値から代表的なサンプルを得る場合 例えば、血糖値の研究で正常域から異常高値まで幅広く対象としたい場合: 1. 全対象者の血糖値を測定し、低値から高値まで順に並べる 2. 並べたデータを10等分する(各区間に同数の対象者が含まれるよう分割) 3. 各区間から10名ずつランダムに抽出する(計100名) この方法により、血糖値の全範囲をカバーしつつ、特定の値域に偏らないサンプルを得ることができます。 ## 不適切なサンプリング例 ### 悪い例1: 研究者による恣意的な選択 「興味深い結果が出そうな検体だけを選ぶ」というアプローチ。例えば、予想通りの結果が出そうな患者のデータのみを選択する方法は、深刻なバイアスを生じさせます。この方法では、結果は母集団を代表せず、研究者の期待に沿った偏ったものになります。 ### 悪い例2: 便宜的サンプリング 「手元にある検体だけ」「都合のよい時間に来院した患者だけ」を対象とする方法。例えば、午前中に来院した患者のみを選択する場合、特定の特性(働いていない、高齢者が多いなど)を持つ集団に偏る可能性があります。